微炭酸のしょう油

やわらかいところ、刺してもいいですか?

本物のプロを目の当たりにした日

お題「やっぱりプロはすごいなと思ったファンサは?」

 

大学生の時、Jリーグの運営スタッフのアルバイトをしたことがある。日雇いのバイトで、朝早くにスタジアムに行き、テントを立てたり、チケットのもぎりをやったりする。

 

その日は関係者通路の警備に配置された。一日中同じ場所で立ち続ける仕事。ただ立っているだけで時給が発生するので、なんとも楽な仕事がこの世にはあったもんだと思ったが、いざやってみるとただ立っているだけというのは、暇だし、両足は辛いし、なかなかどうして重労働だった。

 

テレビ局の女子アナウンサーを見かけて「ラッキー」と思ったり、間違って本来入れないはずの人を通して怒られたりしていると、試合開始の時間が近づいてきた。これからピッチに選手が入場するので、関係者通路も慌ただしくなってくる。ぼくも緊張感をあげていると、遠くから不思議なシルエットがこちらに歩いてきた。何かと思ってよく見ると、それはホームチームのマスコットキャラクターだった。

 

気ぐるみのマスコットキャラクター。慌ただしい大人がピリついている関係者通路の中で、それは少し浮いているように思えたが、何よりも驚いたのはその仕草だった。両手は大きく振り、足は腰の高さまで上げ、一歩一歩コミカルに歩みを進める。そして警備のぼくを見つけると、なんとそのマスコットはぼくに対して"敬礼"をした。

 

いやいやいやいやいや。ここは関係者通路。そこにファンもいなければ子どももいない。誰に見られるわけじゃない場所でも、そのマスコットはすでに「入って」いた。なんというプロ意識。ただ仕事でそこに突っ立っているバイトに対しても一切手を抜くことなく世界観を保ったままの"敬礼"。これぞプロ。これぞ本物。さっきここを遠ってダラダラうろつきながら「おれのすね当てはー?」と言っていたサッカー選手よりもよっぽどプロだった。

 

ぼくもそれに負けないように精一杯「立った」。