微炭酸のしょう油

やわらかいところ、刺してもいいですか?

オーケストラを呼ぶことを考えたら

あいもかわらず、スピーカーに思いを馳せている。昨日は大宮に行く用事があったので家電量販店へ行って実際にスピーカーを体験してきた。

大宮の家電屋はなかなかの品揃えで、やはり田舎の家電屋とは違うなと思わせられた。そこにいる店員さんは年老いた老兵のようだった。最初はこちらの様子を静かに見守っている感じだったが、ぼくら夫婦がしばらくうろついていると、あちらから話しかけてくれて色々と教えてくれた。

ぼくらの予算感を聞くと「それだとエントリーモデルから選びましょうか」といくつかのスピーカーを体験させてくれた。確かにメーカーによって音の鳴り方に違いがあるようだった。僕はと言えば「なんか違う」くらいは分かるが、なにが違うかを上手く表現できるほどではなかったので、ここはあまり知ったかぶりをせず「言われてみるとなんか違いますね」とコメントしておいた。

しばらくいくつかのメーカーのスピーカーを聞かせてくれたが、まあ今日買って帰る感じでもないので、「ちょっと色々考えてみます」と伝えた。すると最後に「それじゃあせっかくだから最高ランクの音も聴いていきますか」と言い、なにやらセッティングを始めた。「今から鳴らすのはこれですね」と老兵のような店員さんは60万円のスピーカーを指差した。そしてそれは僕の記憶が確かなら、一本の価格だったように思われた。つまり、両サイドにスピーカーを置くとしたら2つで120万円。そこに繋ぐアンプやCDプレイヤーを合わせると全部で200万円ほどになる組み合わせだった。

そして老兵のような店員さんがスタートボタンを押すと、その大きなスピーカーからオーケストラが鳴り始めた。1音目から分かる違い。それはまるでそこにオーケストラがいるかのような臨場感。目をつぶって視界の情報を遮断すると、自分がコンサートホールにいるかのように錯覚するほどだった。

帰り道、奥さんは言った。

「200万円は高いけどさ、オーケストラを家に呼ぶこと考えたらコスパ良いんじゃない?」

ぼくは一瞬なるほどなと思ったが、すぐに正気に戻って「それは違くない?」と言い返した。もうちょっとで200万円の売買が決済されるところだった。危ないところだった。