冬の高校サッカー選手権大会を観た。決勝は青森山田と山梨学院。90分と延長戦を戦うも2-2で決着がつかず。PK戦の結果、山梨学院が優勝を飾った。
ぼくはというと、地元の矢板中央高校が準決勝で負けてしまったため、決勝はPK戦しか観ていなかったのだが、PKを決める選手、外す選手、またキックを止めるGKと、選手ごとにいろんな感情を想像してしまい、なかなかに心を揺さぶられる大会だった。
特に特徴的だったのは、PKを外してしまった青森山田の選手。負けが決まった瞬間、人目をはばからず号泣する姿を観て、ぼくもなんとも言えない感情になった。
もちろん優勝した山梨学院は素晴らしい。絶対的な優勝候補である青森山田に対して、2-2でPK戦に持ち込み勝利したことには文句のつけようもないし、彼らが『勝者』であることは疑いようがない。
では、一方で青森山田は果たして『敗者』だったのだろうか。サッカーにおけるPK戦は残酷なもので、運に左右される部分が少なくない。もちろんキックの上手さ、GKの読み等の実力が出る部分はあるのだが、それでも右に蹴るか左に蹴るかを当てられるかどうかなんてギャンブルの要素が強い。
野球で言えば、ホームラン競争で勝ち負けを決めるようなもの。それまでの激闘を思えば、PK戦で勝負が決してしまうことはなんて残酷なことだろうと思う。
そもそもPK戦がなぜ行われるかと考えると、大会運営上の「勝者」を決めるためのものだ。リーグ戦のように試合の結果としての「引き分け」が許されるものと違い、トーナメント戦では「勝者」を決めなければならない。だからこそ強調したい。PK戦は大会としての「勝者」を決めるためのもので、「敗者」を決めるものではない。君たちは「敗者」なんかではない。だからそんなに泣かないでほしい。
★★★
準決勝の山梨学院と帝京長岡の試合もPK戦で勝負が決した。ぼくがとても印象的だったのは、帝京長岡の選手がPK戦で笑顔を見せていたことだった。蹴る前に笑顔だったことについては、そこにある大きなプレッシャーを和らげるためにあえてやっていたことなのかもしれないが、PKを外した選手も笑顔を見せていたことには少し驚くのと同時に、「いや、それでいいよなあ」と思ってしまった。
もしかしたら「PKを外したのに笑っているなんて」と思う人もいるかもしれないが、本当にPK戦なんて運がほとんどだ。決める、外すがはっきり分かれるから、責任が特定の選手に偏ってしまいがちだが、その選手がいなければそもそもPK戦に持ち込めなかったかもしれないし、「彼が外したから負けた」なんてことには絶対になってほしくない。
だからこそ、「うわ、外しちゃったよ」というような笑顔を見せる選手こそをぼくは肯定したい。外した瞬間に泣き崩れるほどに責任を感じる選手ももちろん素晴らしいと思う。ただやっぱり、彼らのこれまでの努力やここに掛ける想いを考えると、彼らを「敗者」という言葉に紐付けてしまうのはあんまりだ。彼らは何にも敗けていない。だからこそ、胸を張っていい。笑顔でいていい。
★★★
高校サッカー選手権大会で流れるテーマ。
うつ向くなよふり向くなよ
君は美しい
戦いに敗れても
君は美しい
この歳になって聞くこのテーマ。こんなに響くとは思わなかった。本当に、君たちは美しかった。