小さな軽自動車の中は沈黙が流れていた。運転手の彼と助手席に座っている僕。どちらも言葉を発さない。僕にしてみれば何か会話をしてみてもよいのだけれど、なんとなく会話が続かなそうな予感がして、それならばと沈黙を続けている。運転手の彼は何を思っているだろうか。気まずさを感じているだろうか。まあよい。僕は頭の中でRIP SLYMEの楽園ベイベーを口ずさんだ。常夏の楽園ベイベー、ココナッツとシャンシャインクレイゼー。
「あのー」
運転手の彼はその小さな声で僕に話しかけてきた。なんだ、こいつも気まずさを感じていたのか。僕は少しばかりの期待をしてその次の言葉を待った。
「ライオンって百獣の王じゃないですか。じゃあシマウマって百獣の何ですかね」
「百獣ってぜんぶに役職あんの?」
「ないんですか?」
「あんですか」
あんですかあ?