微炭酸のしょう油

やわらかいところ、刺してもいいですか?

小説「明るい夜に出かけて」の感想

「アルコ&ピースのラジオが面白い」。そんなtweetを見つけ、そしてドハマリしたのは懐かしい思い出だ。この小説はそんなアルコ&ピースのラジオを愛する少年と少女の物語。全編を通してアルコ&ピースのラジオが登場し、その内容を軸に物語が進む。あれを聴いてきた人間からすれば、そのネタ投稿の感じや番組の雰囲気を思い出して笑ってしまう部分すらあるが、番組を聴いたことのない人にどれだけ伝わるか。いや、たぶん本当の意味ではなにも伝わらないだろう。

 

ラジオとは特殊な媒体である。テレビでよく観るような芸人であっても、ラジオでは全然違う一面を見せたりもする。そのパーソナリティにまるで「誰にも言うなよ」と耳打ちされているようなトークを聴き、ぼくたちリスナーはその「共犯者」になる。それがラジオのパーソナリティとリスナーの関係であるように思う。

 

この小説はそんなラジオリスナーがそのまま切り取られている。作者自身もラジオリスナーだというし、リアルに作者がラジオを聴いて感じたことが綴られているのだろう。ラジオリスナーというと一般的には暗くてオタクで、社会にあまり馴染めないような人たちを連想する。というか実際にいろいろなラジオでそのようなリスナーの投稿をよく耳にするから、ほぼ事実なのだろう。

 

深夜ラジオはそんな社会に馴染めないリスナーたちへの給水所みたいなものだ。ぼくも大学時代は深夜ラジオを聴きまくっていたのだが、事実大学生活は最悪だった。そんな昼間の最悪な気持ちを持ち寄り、みんなが寝静まった中でパーソナリティの話に耳を傾ける。そこでテレビじゃ聴けないような「本当のトーク」みたいなものを聴き、笑い、共感する。そして外が明るくなると、また辛い日常に戻る。日常は辛い。でもこの昼間を乗り越えればまた夜はやってくる。ならもうちょっとだけ頑張れる。

 

太陽の日差しが眩しすぎる人間もいるのだ。ラジオはそんな人たちを少しだけ元気にしてくれる。この状況を、環境を、自虐して笑うためのなにかにしてくれる。みんなが寝静まった夜、ラジオは静かに聴こえてくる。ぼくらにとっては、この夜はこんなにも明るい。