微炭酸のしょう油

やわらかいところ、刺してもいいですか?

文庫本の醸し出す熱

この前、Jリーグ栃木SCの試合をスタジアムに観に行ったときのこと。あの日は灼熱だった。午後6時キックオフではあったものの、試合開始前の練習を観たり、スタジアムの雰囲気をゆったり味わうためにはもう少し早く行かなきゃいけないということで、4時半くらいにはスタジアムに到着した。

 

まだ太陽が沈まない時間であり、屋根もない観客席で座っていたらそれこそ死んでしまうということで、私たち(弟と一緒に来た)は日陰でかき氷でも食べながら時間を潰すことにした。

 

そこで目に止まった人に私は少しかっこよさを覚えてしまった。それは日陰ではあるものの、灼熱の外で一冊の文庫本を読む男性の姿だった。腕まくりをし、日陰で地べたに座り、汗だくになりながら一人、カバーを外した文庫本を読む男性。それが文庫本だったのがまた良い。古本屋に行けば100円から買えて、それでいて一冊を読み終えるのにはある程度の時間を要する。その意味では文庫本とは世界で最も安価で時間を潰すことのできる娯楽だ。それゆえに醸し出すのは無骨さであり、泥臭さであり、加えてチャラチャラとおちゃらけていない頭の良さも感じられた。雑誌でも、漫画でも、ハードカバーでも駄目だ。それが文庫本だったからこそ、そこにあった景色は風景として完成していたのだと思う。

 

おしゃれなカフェでコーヒーを飲みながら、ハードカバーのお気に入りの小説を静かに読むのも良い。しかしその対極にあったあの風景もまた、小説の読み方としては最高にロックでかっこいいものだった。

 

私も文庫本で小説を読もう。もちろんカバーは外して。