微炭酸のしょう油

やわらかいところ、刺してもいいですか?

僕にとってプールの自由時間は陸の上にあった話

寒い。
12月ももう後半に差し掛かってきて、ついに本格的に冬になったと実感する。
外を歩けば、風は冷たく、手先は凍え、骨の芯から凍りそうなくらい寒い。

僕は寒いのが苦手だ。
おそらく脂肪が人より少ないのが原因だが、寒さがモロにダメージになってくる。
冬の石川に出張に行ったときは、ヒートテックを重ね着して、先輩に笑われた。

そうやって「寒い寒い」と考えていたら、
ふと小学校のプールの時間を思い出した。
小学校のプールと言えば、夏の体育の時間に毎年入らされるものだが、
もちろん屋外にあるし、温水でもなんでもなく、僕は「寒い」記憶しかない。
夏とはいえども曇りの日はもちろんあったし、
体育が1時間目の朝早い時間のときなんて、とてもプールに入る気温でなかった。
僕はプールの時間がとても憂鬱だった。

特に嫌だったのは、プールに入る前のシャワーと消毒。
僕にとってみれば、あれは一つのだ。
エンマ大王が新しい種類の地獄として採用してもいいと思ってる。
そんなシャワーと消毒を、僕はなんとか回避することだけ考えていた

シャワーのステージは、昔のロックマンのようなもので、
絶対に当たらない場所というのが存在する。
その場所を熟知していた僕は、水滴が当たらないルートを確実に通っていた。
そして次に現れるのが消毒のステージ。
消毒と言えば、流れ作業的に生徒が列をなして消毒液に浸かることになるが、
僕は横の金網をつたって消毒液を避けた。
まるで筋肉番付のSASUKEのように、着水しないようにステージを攻略するのだ。

そんな僕がプールの時間に思っていたこと、
それは「早く上がりたい」だった。
「25m泳げるようになろう」とか「塩素の玉を見つけた」とか
そういうことはどうでもいい。
僕は一秒でも早く水から出たかった。

プールの時間は最初は先生の言うとおり泳がなくてはならないが、
最後の方に「自由時間」というものが設けられていた。
そこで生徒たちは大きいビート板の上に乗ったり、ボールで遊んだりを始める。
僕はと言えば、先生の「それじゃあ今から自由時間!」という
掛け声がかかる瞬間、プールから上がる
そして体の水滴を全て拭き取り、プールサイドで寝転がる。
そのとき初めて、「雲って動いているんだな」と思った記憶がある。

人はそれぞれ、自分なりの自由を持って生きている。
プールの自由時間と言っても、プールに入る必要はない。
こういう自由もあるのだ。


小学校二年の夏のことである。